喧嘩

男がアパートに会いに来る。台風の中。もう会わない。言おうと決めていたが顔をみたらやはり言えなかった。あげく、忙しい、忙しいばかりいうので、

時間は自分で作るものだから。と、何気なく言ったら、

『だから、今、こうやって時間作ってあいにきてる』と、嫌味のひとつを言われた。

 辛かった。現場監督の男はひどく忙しい。わかっている。でも、忙しい中の一員にあたしも混じっているお判り、泣けてきた。

台風の中抱き合う。抱き合ってしまうと男の嫌味などどうでもよくなる。ずるい。

強いふりをする。

けれど忙しい中あいにきてくれただけでも嬉しいだなんて思ってしまう自分も嫌だ。

不倫の恋はほんとうに終わりがない。

わかれたいのに

  男の電話番号を着信拒否にした。待つのに、期待するのに、疲れたのだ。着信拒否にしておけば、へんな期待をしないでもいい。昨日最後のワガママだと思いメールをした。

『うちで待ってる』

 と。案の定連絡はない。なので拒否にした。

 しかし、今日電話がかかってきてしまう。着信拒否にしても履歴が残る。あたしはいつの間にか男の携番を記憶していたのだ。

 着信拒否を解いて電話を待った。

『昨日は悪かった。現場の打ち合わせ』

 男の新しい現場がなんとあたしの会社から5分とかからないところになったという。

 現場監督なので、他にも現場はあるけれど、近いので運が良ければあえてしまう。

 元々の出会いが現場事務所だった。

 4年も経ってしまった。その時と同じよう遜色ない恋心。

 不倫というのは、いいところしか見ないので、なかなか色褪せることがない。

『明日時間あれば連絡する』

 あたしは、電話越し、わかったわ、とても素直な女のふりをする。都合のよい女だということはわかっている。

 都合よくぞんざいに扱わるのが、嫌なら無視をしたらいい話だ。けれどあたしにはそれがちっとも出来ない。男が帰ったあとさみしさが襲い、次いつ会えるかという不安が過ぎる。

 鬱陶しい存在にはなりたくないと思い、強いふりをする。強くもないのに。泣き虫なのに。

 いっそうのこと、忘れてしまいたい。

 あなたは、あたしを恐ろしいほど、苦しめているのよ。あなたのために流した涙は多分湯舟いっぱいだわ。

 嫌味のひとつでも言ってやりたい。

 好きな感情は日常生活の中に組み込まれるので、考えなくてもよいことなのに、涙をつい、流している。

 終わりたいのに、終われない。終わらせたくない。実はそれが本音だろう。

 男が死ぬか、あたしが死ぬかしか解決策などはない。

奥さんがいないから

 奥さんが出張でいないならといい、男がうちにきた。引っ越しをしたぶんで、たくさんパンダの箱のある中で抱き合った。

 なかなか別れることができない。

 男はあたしの身体を熟知している。

 あたしたちは、いつもセックスの後、反省会をする。

 冷静になり真顔で反省会。笑えてくる。

 酔っていたので、自転車で来て自転車で帰って行った。

 付き合っている男と同い年の不倫相手の男。

 どちらとも愛おしいほど好きだけれど、そう簡単に会えない不倫相手を優先してしまうあたしがいる。

 

 5年も付き合っている。

 奥さんにもばれたがまだ続いているとは思っていないだろう。申し訳ないとかまるで思わない。そんなくだらない思考はすでになくなった。 

 

『嫌いならこない』 

 男はいつもそう言う。なら、好きなのか、と、問えばうまく言葉を濁す。

 先のない恋。

 なかなか終わりは来ない。

あえた

逢えないのも辛いけれど、

逢っても辛い

 

好きと言って

お願いよ。最後のお願い。

 

男はおし黙る。ばかか、最後のお願いが一体何回あるんだよ。

呆れた口調。抱きついているので顔の表情は読み取れないが、きっと、いや、絶対に困惑の状態になっている。

好きだよ

昔なら簡単に言ってくれた言葉なのに、今では、何年も前から一度も口にしてはくれない。

言葉が全てではない。

けれど、女は言葉をせがみ、

男は体をほしがる。

 

好きだと言ってくれないなら、離さないから。

男の首に巻きつく手をきつくしめる。

どうして。

嘘でもいい、あなが、あたしのものには一生ならないなら、せめて言葉を、言葉をください。