くるしくて
雨の日になるとつい、メールをしてしまう。
おもての仕事。けれど現場は暴風雨以外止まることはない。常に工期に追われていて、尚且つ他の現場もあるため、ひと息つく暇もない。
けれどメールをすると、メールではなく電話をくれる。
あいかわらず、電話がくるとドキドキしてしまう。声がうわずる。
『わ、すげータイミング。俺もメールしようとした』
今、高速走ってる、と、付け足す。
『なんかあったの?』
『いや、めちゃくちゃ凹んでて。大変で。なんか愚痴』
そう、あたしは、耳元から聞こえる愛おしい声を記憶する。
すぐそばにいるようで、すぐそばにはいない。
遠い存在の人。
あいたいときに、あえないひとなのに。どうしてあたしの頭の中にいつまでもいるのだろう。
思い出すのは、男に抱かれている場面で、抱きしめられる温もりを必死に思い出そうとかき集める。
思い出される温もりなど現実味などはないが、細い糸で繋がっているだけだとしても、ただそれだけで嬉しい。
『まだ、これからお客さんとあうんだよ』
『……、そう』
あいたいわ。思わず言おうとしたけれど、やめておく。数日前に無理してあったぶんなのだ。
『連絡ちょうだいね』
『わかった』
『ほんとうに?』
意地悪く質問をしてみる。男からは滅多に連絡はよこさない。
『ははは』は、を、3度口にした。笑ったのか誤魔化したのかはぐらかしたのか取るに足らない笑い。
好きよ
この前、男に呟いた。
愛してる
留めの言葉に男はとうとう、バカ、と、だけ答えた。
どうしようもないあたしたちは、どうしようもなく小さくて、情けなくて、誰にも祝福などされず、身体を重ねるだけだ。
『またね』
鷹揚な口調で電話越しに呟けば、
『またな』
低くて愛おしい男の声が折り返してくる。
オムライスを作っていた。
男もオムライスが好きだ。あたしはだんだんと薄暗くなるおもてを小さな小窓から覗き、カチャカチャという金属音を鳴らし、ゆっくりオムライスを一口づつ口に運ぶ。
子どもの声がする。
夕方の喧騒があたしはきらいではない。