わかれたいのに

  男の電話番号を着信拒否にした。待つのに、期待するのに、疲れたのだ。着信拒否にしておけば、へんな期待をしないでもいい。昨日最後のワガママだと思いメールをした。

『うちで待ってる』

 と。案の定連絡はない。なので拒否にした。

 しかし、今日電話がかかってきてしまう。着信拒否にしても履歴が残る。あたしはいつの間にか男の携番を記憶していたのだ。

 着信拒否を解いて電話を待った。

『昨日は悪かった。現場の打ち合わせ』

 男の新しい現場がなんとあたしの会社から5分とかからないところになったという。

 現場監督なので、他にも現場はあるけれど、近いので運が良ければあえてしまう。

 元々の出会いが現場事務所だった。

 4年も経ってしまった。その時と同じよう遜色ない恋心。

 不倫というのは、いいところしか見ないので、なかなか色褪せることがない。

『明日時間あれば連絡する』

 あたしは、電話越し、わかったわ、とても素直な女のふりをする。都合のよい女だということはわかっている。

 都合よくぞんざいに扱わるのが、嫌なら無視をしたらいい話だ。けれどあたしにはそれがちっとも出来ない。男が帰ったあとさみしさが襲い、次いつ会えるかという不安が過ぎる。

 鬱陶しい存在にはなりたくないと思い、強いふりをする。強くもないのに。泣き虫なのに。

 いっそうのこと、忘れてしまいたい。

 あなたは、あたしを恐ろしいほど、苦しめているのよ。あなたのために流した涙は多分湯舟いっぱいだわ。

 嫌味のひとつでも言ってやりたい。

 好きな感情は日常生活の中に組み込まれるので、考えなくてもよいことなのに、涙をつい、流している。

 終わりたいのに、終われない。終わらせたくない。実はそれが本音だろう。

 男が死ぬか、あたしが死ぬかしか解決策などはない。