朝
現場が近いと本当にまずい。
朝また監督のところに行ってしまった。
やれやれ顔だった。
仕事で疲れているのに。わかっているのに。
利己的な判断に監督は嫌気がさしている。
現場のこときかないでおけば良かった。
しばらくは行かないように、しないと。
普通の恋愛がしたい。
逢いたくて
仕事をしていても、逢いたくて逢いたくてパソコンの文字がぼやけて見える。なんとかパートが終わり、監督の見ている現場に行ったら、車があり、現場事務所に監督がいた。
『めちゃ忙しい』
確かに忙しいそうだった。監督は今ファミリーマートを3つも見ている。
しかし、仕事をしている男ってどうしてこんなにもカッコよくみえるのだろう。
今にも抱きつきたい衝動に駆られるも、
『ごめん、今から人くるから、』
あたしはごめんね。と、言ってから、急いで現場事務所をあとにした。
顔が見れて良かった。それだけでも満足してしまうあたしはかなり重症だが、忙しい監督が好きなので、やっぱり電話、待つしかない。
好きになったほうが負け。けれど、負けてもいい。嫌われるよりは。
あたしは、じっと待つしかない。
逢えないほうが辛いから。
だめだ
パート先から徒歩5分の現場にいる男。今日もパート終わりつい、見にいってしまう。
足場の兄ちゃんに『監督はいつくるの』聞いてみたら、『朝しか来ないっす』と言われ汗だくだくの中途方にくれる。
『伝言伝えましょうか?』兄ちゃんが気を利かせ聞いてくれたが、あたしは首を横に振り、いえ、と、お断りした。
あたしは今まで監督の知り合いの水道屋電気屋同じ現場監督のおっちゃんに会っていて、皆あたしが、監督の不倫相手だと承知だ。
『監督はモテるからね〜』皆そう言った。けれどあたしのことは深く聞いて来なかったし、むしろあたしから説明をしたくらいだ。
『そう』
皆一様に同じ返事。別に驚きもしない。
けれど、同じ現場監督の同僚には言われた。
『ほどほどにね』と。
ひっそり行う行為がひっそりでなくなる。そうやって奥さんにバレたのだから。
もう、すっかり別れたと思っているみたいだが実はまだ継続中だし、あたしは大好きだ。
奥さんには申し訳ない?いや、申し訳ないなどとは思わない。
あたしはパンツを脱がし、この前パンツにピアスをつけておいた。以前もフリースにピアスをつけておいたが、監督には言わないで捨てたらしい。
今回もそうだ。
監督から連絡ないということはまた無視をしている。あたしが奥さんの立場なら殺してやりたいほど憎たらしはずなのに。
妻というポジションってある意味怖いものなしだ。
確かに現場監督は金儲けいいからね。
不倫くらい多めに見てあげて欲しい。と、昔監督が言っていた。
喧嘩
男がアパートに会いに来る。台風の中。もう会わない。言おうと決めていたが顔をみたらやはり言えなかった。あげく、忙しい、忙しいばかりいうので、
時間は自分で作るものだから。と、何気なく言ったら、
『だから、今、こうやって時間作ってあいにきてる』と、嫌味のひとつを言われた。
辛かった。現場監督の男はひどく忙しい。わかっている。でも、忙しい中の一員にあたしも混じっているお判り、泣けてきた。
台風の中抱き合う。抱き合ってしまうと男の嫌味などどうでもよくなる。ずるい。
強いふりをする。
けれど忙しい中あいにきてくれただけでも嬉しいだなんて思ってしまう自分も嫌だ。
不倫の恋はほんとうに終わりがない。
わかれたいのに
男の電話番号を着信拒否にした。待つのに、期待するのに、疲れたのだ。着信拒否にしておけば、へんな期待をしないでもいい。昨日最後のワガママだと思いメールをした。
『うちで待ってる』
と。案の定連絡はない。なので拒否にした。
しかし、今日電話がかかってきてしまう。着信拒否にしても履歴が残る。あたしはいつの間にか男の携番を記憶していたのだ。
着信拒否を解いて電話を待った。
『昨日は悪かった。現場の打ち合わせ』
男の新しい現場がなんとあたしの会社から5分とかからないところになったという。
現場監督なので、他にも現場はあるけれど、近いので運が良ければあえてしまう。
元々の出会いが現場事務所だった。
4年も経ってしまった。その時と同じよう遜色ない恋心。
不倫というのは、いいところしか見ないので、なかなか色褪せることがない。
『明日時間あれば連絡する』
あたしは、電話越し、わかったわ、とても素直な女のふりをする。都合のよい女だということはわかっている。
都合よくぞんざいに扱わるのが、嫌なら無視をしたらいい話だ。けれどあたしにはそれがちっとも出来ない。男が帰ったあとさみしさが襲い、次いつ会えるかという不安が過ぎる。
鬱陶しい存在にはなりたくないと思い、強いふりをする。強くもないのに。泣き虫なのに。
いっそうのこと、忘れてしまいたい。
あなたは、あたしを恐ろしいほど、苦しめているのよ。あなたのために流した涙は多分湯舟いっぱいだわ。
嫌味のひとつでも言ってやりたい。
好きな感情は日常生活の中に組み込まれるので、考えなくてもよいことなのに、涙をつい、流している。
終わりたいのに、終われない。終わらせたくない。実はそれが本音だろう。
男が死ぬか、あたしが死ぬかしか解決策などはない。