転移
右手の中指にかさぶたみたいなものがあり、まあ、いつかは治るだろう。と、放っておいたら、やけにでかくなり、皮膚科に行くことに決めた。
皮膚科は実に嫌いだ。やたらに混んでいるし、小さな子どもがたくさんいる。あたしは子どもがいるくせに子ども嫌いなのだ。
けれど、なぜか小さい子に好かれてしまうあたし。
小さい子からのつぶらな視線があたしに矢の如く突き刺さる。
なにか、話さないと。
脅迫観念に襲われ、ニヤリと笑ってみる。笑うと天使の笑顔は律儀にあたしに返ってくる。
小さな子には好かれるらしい。
『かわいい。なんさいなの。きみは?』
隣にいる男の子に声をかける。
俯きながら、指を絡ませ、んーとねと指折りしながら自分の年齢をあたしに告げようとしたとき、男の子の隣から、ひょいと顔を出した男の子お母さんが赤ちゃんを抱きながら、
『いくつか言ってあげて』
お母さんらしい、鷹揚な口調で男の子の頭を撫ぜる。
『5歳、』
『あ、5歳ね、そう』
『……、くらい』
最後に付け足した、くらい、の台詞にあたしと男の子のお母さんは顔を見合わせ、顔をくしゃりとさせ、目を細めた。
小さな天使が2人。
あたしは大きな天使が2人いますよ。
心の中で呟く。あたしはよく、孤独なおばさんに見られる。独身だ。行き遅れー。みたいな目を向けられる。笑えるそこ。
子どもは宝だし自分の子どもはとてもかわいい。
どのお母さんもそう思っている。
あたしの名前が呼ばれ先生に中指を見せる。
『イボよ』
イボ……やだ。思わず声に出してしまった。先生が
足にもできてるはずよ。
言われ靴下を脱ぎ触診されると、
『2つあるね』
イボ……また?
どうやら足の裏にあったイボが転移したらしい。
液体窒素で焼くから。
焼くのは嫌です。薬でちらして。
などと不明瞭な押し問答ののち、あたしは液体窒素にて幹部を焼かれた。
焼くというのは、窒素(ドラアイス)を噴射することだったらしい。
痛い。なんだかよくわからないまま、次は10日後くらいに来てね。言われ、半泣きの顔をし待合室に戻る。
小さな天使の姿はすでになく、おばあちゃんが2人肩を並べ順番待ちをしていた。
彼にメールをした。喧嘩したから、謝罪メール。
素直になろうと思ったのは、天使の笑顔のせいにしようと、ごめんね。とメールを送った。
中指がひどく痛い。
おばあちゃんの笑顔もある意味天使だと、あたしは目を細めた。